鉛筆の話(HB)/やまうちあつし
何気なく手に取った
鉛筆を見て気がついた
芯が尖っている
おかしいな、削った覚えはないのだが
ペン立てにある鉛筆を見てみると
一本残らず先が尖っている
どうやら私が知らないうちに
削ってくれる人があるらしい
何も言わず
何の見返りも求めず
その人は鉛筆削りで
ぞりり、ぞりり、と鉛筆を削って
素知らぬふりでペン立てへ
今日まで私は
何の思いもめぐらさず
その鉛筆で詩を書いて
まとまらないと言っては芯を折り
発想が途切れたと言っては紙を丸め
上手くいったときにはいそいそと
他の誰かに見せに出かけた
そんなときにもその人は
静かに笑って見送っていた
そして私が
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)