うまかもん/
梓ゆい
父と食べた大トロの刺身が
真夏のトマトよりも美味かった。
春先の清水港
少し冷たい潮風が
ドライブ休憩中の身体を包んで心地よい。
初めて見る厚く切り分けた大トロの刺身は
一口二口と切り分けるたびに
濃厚な脂身が舌の上へと染み込んで行く。
最後の一切れを食べたい。と
箸と腕を卓上に伸ばす姿はまるで
軒先で母燕を待つ
小さな小さなひな鳥のよう。
父と切り分けた大トロ半分をつまんだら
海のにおいと脂のうまみが
頬張る口の中にもう一度広がった。
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