望桜花/長崎哲也
 
風もなく、静かな夜半に
疲れたかすむ目を、外に向ければ
ここから見える桜木に、花が咲いている
それは、わたしの目にだけ映っている、花
七分咲きの、満開の、はらはらと散りゆく花びら
走馬燈のように、網膜の裏を通り過ぎる

幾年、桜の咲き誇る姿を見てきたことだろう
そこにはいつも、その時々の記憶を、感情を
刷り込まれた桜花の姿があった
桜の花には、記憶と感情とそれ以外の何かを
強く印象づける力があるように思える

目の前の桜木、
まだ蕾も膨らんでいないのに
わたしには花を付けた満開の桜が
確かに見えるのです
 
 



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