グラン・ギニョール(ただし観客が皆無の)/ホロウ・シカエルボク
みはやはり思い出そうとした、そうなる前にどんな時間の中に居たのか―だけどそれはやはり思い出すことが出来なかった、待ってみるしかない、きみはそんなふうに考えた、だけどもしも、これが死後すぐの状態であり、きみがすでに肉体を抜け出していたとしたら?そう考えるときみの心はひやりとするものを感じたが、すぐにそれは間違っていると考え直した、確かにいまは魂のように封じられているけれども、本当に肉体を抜け出しているなら自由に移動することくらいは出来そうなものだからだ、少なくともまだ死んではいないだろう、きみはそう結論した―きみは目を閉じる、なにも考えず、どんなものも期待せず、また絶望せず、きみを取り巻く状況が変わることを待ってみるしかない、きみは何も思い出せない、ヒントのように時間を刻む時計の音も聞こえない、なにも手に入らないならどんなものも望まないことしか正解はない。
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