グラン・ギニョール(ただし観客が皆無の)/ホロウ・シカエルボク
 


もっとも死臭を放つ頃合いの腐乱死体のような世界にきみは巻き取られて、叫び声も叶わず飲み込まれようとしている、手足の指先は究極に凍えたみたいに上手く力を入れることが出来ず、手に触れるもの、足を下ろすところすべてが覚束なく離れてしまう、飲み込まれたらお終いだ、きみは全身の生命でその予感をキャッチするが、だからといってそこから逃れる力が湧いてくるわけではない…それは濁流の渦となって、きみを逃れられないところまで連れて行こうとする、死ぬことが怖いのではない、死など所詮生の範疇の外だ、「死ぬかもしれない」と思うことがきみは怖いのだ、きみは腕を動かして、もがいて流れの外に出ようとするが、上手くいかない
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