カーネーション リリー リリー ローズ/末下りょう
 


側面と奥行きを切り詰めた青い神経の
清潔な色彩の箱庭
消え入りそうに立て掛かる
淡い寓意の記憶
それはきみが好きだった世界の一つ

蜂蜜色のレンガを積んだ家々を背にすれば
いまもそれを少し上から見おろせる
村の職人たちは刈り終えた羊の毛を
日没までにその大きな屋敷に運び込み
周密に飾り立てた箱庭の切れ目は
夏の逃避のための折り目を呼びさます

縦に入る影に挿した 可憐な造花の戯れ
くびれる草葉は移り気にくるめき
風と風にはさまれた乙女たちはそっと艶をおびて
その前に立つものに見守られ
箱庭の構図は考え尽くされて消えていく


俯き向かい合う幼い顔や手
紙のランタンに照らされ 夕暮れ時の
花ざかりの庭に灯るもの

百合のようなからだはローズの香りをかぎながら
カーネーションをあなたたちに贈りあう

それはきみが好きだった世界の一つ



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