さっちゃんの空/もっぷ
 
さっちゃん
その絵のお空 きれいね
うん
見えるとおりにクレヨンぬったの
心を持った先生だった
さっちゃんのその画用紙は
全部が青色だけで塗りつぶされていた

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園庭の、みんなの花壇の前で
お花を描きましょうという時間
さっちゃんが 口を結んで泣いているのを
先生はみつけていた さっちゃんの
手許の画用紙に四歳のなみだが滲みこんでいく
さっちゃん自身も気づいていた

お花のことなどあたまのなかから
すっかりとなくなっていたさっちゃんは
お絵描きだけは それだけはちゃんと
ほんとうは見上げもせずに空を
確かあおかったはずだと あおいろ を握りしめ
……それがこの日のせいいっぱい 先生は
何も聞かないでも その青い一枚が空だと悟って
さっちゃんに きれいね って

なぜってそのお空は わずか四つのこどものなみだが纏う
きれいでない理由がありますか


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