文学/葉leaf
 
社会人3年目の年の瀬が近づいていた。社会人になりたての頃の甘い夢や希望はもはや失われ、その代わりにきわめて冷徹な現実認識を獲得し、日々新しい出来事に対処していくスキルの獲得に追われた。目標や将来が具体化していき、社会の生臭い力学を見つくした後で、それでも質の変わった前向きさを抱きつつ日々を過ごしていた。
仕事がうまくいって楽しいこともあった。だが、例えば職場いじめであるとか、責任のなすりつけ合いだとか、不用意に人を傷つける発言であるとか、そんなものに直撃されて世間に嫌気がさすことも多かった。
世間に嫌気がさしたとき、私は文学を読み、文章を書いた。会社の仕事が無機的なものだとすれば、文学は極めて有機的で滋味に満ちていた。会社の仕事が俗なるものだとすれば、文学には幾分かの聖なるものが混じっていた。会社の仕事が実践にかかわるものだとすれば、文学は実践とは無関係な美にかかわるものであった。
社会人の生きる原理とは別の原理で駆動される世界、文学とはそのような世界であり、私にはそのもう一つの原理が生きていくうえで不可欠であった。文学には命があり、思想があり、教養があり、正義があった。

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