またね!/もっぷ
 
 タイトルは『浅き日のこと』そして『高野ヨウ』をペンネームとして出版社に持ち込み自分を賭けてみたい小説の原稿と今夜もまた向き合う。『――彼女は「またね!」と言ったはずだし、ぼくだって「さよなら」とは言っていない。それが数日前のことだったのかあるいはつい昨晩の単なる夢か。末期だった(解剖の結果初めてわかった)、なのに医者にもついに行かないままだった、もうこの世では息をすることもない、彼女。痛みに耐えきれなかったのだろう、自ら、この世を諦めて、しかし軌跡はぼくが忘れない。誓って。誰が過去のことだと片づけたとて、ぼくだけは、絶対に。手許に残されたのは、なぜだろう、たった一枚の写真と、そのなかの笑顔。だけ
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