いつか見た映画みたいに/ホロウ・シカエルボク
月もすると慣れた。キヨミは彼の失われた指を見るたび、それが自分のせいのような気がして悲しい思いをした。ヨシオは表向き平静だったが、それは隠居した老人の静けさに似ていた。(俺じゃなくてもいい)時々ヨシオはどうでもいい文章を打ち込みながらそんなことを考えた。(俺じゃなくてもいい、こんな、人差し指のない俺がやらなくてもいい…)ヨシオは寝床につくと、自分の指が降ってくるのを見るようになった。オオ、オオ、俺の指、俺の指が降ってくる、果てしなく降り継ぐのに積もらない、まるで早い春の淡雪のようだ、降り続くのに積もらない、オオ、俺の指、お前はどこに消える、いびつな断面を晒して…ヨシオは目を閉じる、ボトボトという音が、鼓膜の内側にまで響いて来る。
戻る 編 削 Point(2)