いつか見た映画みたいに/ホロウ・シカエルボク
 


ここにヨシオという男が居る。三十を少し過ぎたもの静かな男で、生活のためにある巨大な施設の厨房で洗い場を担当している。毎日日が昇る前に仕事場に入り、日が暮れるころに家に帰る。彼には共に暮らしている女が居る。名前をキヨミという。ヨシオと同じく、もの静かな女である。年齢はヨシオのひとつ上である。彼女はずっと家に居て、黙々と家事をこなしている。二人は共に映画が好きで、出会ったのも映画館だ。座れるだろうとタカをくくって出かけた名もなき監督の作品が、思ったよりも注目されていて立ち見になって、角に押し込まれるように映画を観ていたキヨミを可哀想に思って、ヨシオが場所を変わってやったのがキッカケだった。それ
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