恋慕/智鶴
 
貴方が奏でる言葉はいつも
嘘ばかりが煌びやかに揺らめくので
いつからか私は言葉の端に
緩く小指を絡めては
何処か遠くに行かないで、と願う様になった

矢絣模様に臙脂色
朱色に紛れた杏子色
何処か遠くで遠慮がちに、耳を擽る銅の鐘
指に鉛筆の煩わしさを感じた頃に
教会の鐘が後味無く洗い流していく
トロンボーンの芯を転がす音が
腿に触れる襦袢の冷たさと同じに感じた

眉を小さく顰めて齧った紅玉の酸の様に
何処か爽やかな諦めを持って、貴方を
その温かさの向こうにある確かな窓の透明感を
硝子の堅い触感と冷たさに紛れて
忘れてしまいがちな木枯らしの激しさを
鮮明に思い出し
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