けさのじごく/青木怜二
ゆるさない、しずかな鬼が
胃のうらで体育すわりをしてる
午前8時の喫茶店にて
ゆで卵のむき出しの
黄身に塩がかかりすぎて
窓辺から光さすきらきらの
砂丘はじごくでした。小さな人が
登ろうとして呑まれてく
幻視をとめて口にほおばる
陰るテーブル席にて
針山のようにありとある
たとえばレジの開く音や
となりの人のせき払いや
乱暴に開け放たれる扉と
割れたカウベルの騒音の
すべてが何かの悪意のもとに
私へと向けられた音ではないかと
いう、あやうい恨みを消す
消せなくなった人が落ちてゆく穴を
その傍らでのぞくようにして
心の両手を合わせる
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