蕪の葉/佐々宝砂
 
わたくしの心にだって情念の火くらいはありますのよと
微笑んで密集した蕪を抜く
抜いても抜いても蕪は密集していて
今日も明日もあさっても蕪の抜き菜がおかずですねと
やっぱり微笑んで蕪を抜く
微笑みを返してもらえないのはわかっていますのよと
蕪の泥をざっと手で落として蕪を洗う
小さな蕪を切り落としでも捨てるのはもったいないから
橙醤油に漬ける
蕪の葉はざくざくと刻む
フライパンに胡麻油をひいて
シラス干しがカリカリするまで火を入れて
切り刻んだ蕪の葉を手早く炒める
ほんのちょっとだけ塩
入れ過ぎたらシラスも蕪の葉も負けてしまいますのよと
青菜に塩みたいになってる人に向かって微笑んで
(ああわたくしは微笑んでばかりいる)
今日もお肉がなくって申し訳ありません
うちの財布にはお金がありません
食品棚だっていつもからっぽです
わたくしはどうやって火を維持したらいいのでしょうか
いえ維持しようと思わなくても火は燃え上がるものなのです
などとわたくしは申し上げたりはしなくて
かわりに食卓にどんと焼酎の瓶を置く
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