ありふれた旅/青木怜二
烏の白い瞬膜をなめて、頬を濡らした女の子が夕べ
上野駅前の歩道橋でナイチンゲールを売っていたのだがそれは
花とも鳥とも判別がつかず、私は眼鏡を買うことにした。
今朝、ソルフェリーノの丘で摘まれた戦火の燻る小瓶を胸に忍ばせながらタンザニアの
ナイルパーチに育まれた商業都市の午前3時を歩いていたが、もう
路地裏にいた少年はいなかった
シンナーたっぷりのペットボトルを母のように抱いていた彼の
荒れた唇から漏れた白い息を、空きの小瓶に詰めて
またひとつ、胸ポケットにしまう。
「ああ、また間に合わなかった」
ため息を吐く帰路、丸山珈琲店小諸店にて
「北山珈琲店にはどう行った
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