砕け散った/葉月 祐
冷たい指先から
ありもしない温もりが
すべて消えていくようだった
愛用していた
小さなティーカップは
一秒もしない内に
床への着地を成功させる事も無く
繊細な細工の施されていた器は
その形を失い 砕け散ってしまった
温もりを失った指先は
じわりと湿り気を帯びている
言葉も出せなかった
涙は出なかったが
動揺し 微かに震える両手に
嫌な手汗が滲んだ
暖かみの感じられる
木目の床の上に広がった
普段は熱々のコーヒーや
綺麗な模様に隠されている
陶器の破片の本来の色があらわになり
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