イノセント/倉科 然
 
目をそっと閉じてみる
そこは青い風の吹く深海でありあなただけの精神世界だ
あなたは喧騒雑多な街から離れ独りそこにうずくまる
自嘲することもなく非難されることもないのだ
ましてや移ろいで行く時代に囚われることもない
そこはあなたの自我だけが存在する海底
現世の光も届かぬ場所だ
そこであなたは心づく
決してあなたという自我を捨ててはならない
偽悪を作り我こそが正当な道徳だという人間を疑うのだ
真っ当であれという真っ当な人間の底意を計り知るのだ
決してあなたはあなたの根幹を他人に譲ってはならない

目をそっと開けてみる
きっと世界は偽悪を作り闘っている
しかし一度海底まで沈んだあなたの世界は透き通っている
過ぎ去る今日もやってくる朝日も
美しく。
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