かつて勇者と呼ばれた者/たいら
 
勇気ある者が勇者と呼ばれる者ならば
少なくとも自分にはその資格は無いのだと思う
此処へ至るまでの道中
幾度と無く故郷へ帰ろうか悩んだ
目の前で幼子が喰い殺されたとき
冬山で食糧が尽きて木の根を齧る他無かったとき
魔物の毒に冒され三日三晩死の淵を彷徨ったとき
魔王と刃を交えているこの瞬間でさえ

目の前のこの男は何者なのだろう
何の為に戦っているのだろうか
自分は何者で、何の為に
そんな疑念を振り払うように

幾千幾万の魔物を屠り
悍ましい血と肉にまみれ
すっかり錆び付いてしまったそれを
最早剣と呼ぶ事すら躊躇う鉄の塊を
振るう
叩きつけるように
全身全霊を
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