紙様/やまうちあつし
夏目漱石の「夢十夜」という小説の中に
鎌倉時代の仏師・運慶が甦り
護国寺の山門で仏像を彫り進める
というエピソードがある
見物人の一人が解説して言うことには
樹木にはあらかじめ仏像が内蔵されていて
彫刻家はそれを掘り出すだけなのだという
私はあるとき
詩も同じだということに気が付いた
この世のあらゆる紙という紙には
例外なく詩が内包されていて
詩人はそれを何かの機会に
がりがり削り出すだけなのだ
どんな原稿用紙にもノートにも
ちょっとしたメモ帳や反古紙にも
詩は隠されている
そこでわたしは想いを馳せる
素通りされこの世に現れ得なかった詩の数々に
そしてまた思う
書きたいものとか好みとかテーマとか
そんなものどうだっていいのだ
ただ目の前の紙を見据えて
秘められた詩を掘り起こすだけ
それが詩人に課された
この世の宿題
わたしはひとりの彫刻家
昨日売店で買ったボールペンを持つ
かみさま、
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