静かな滝/白島真
 

しろい大蛇が
裸体を取り巻いている
その人が男か女かはわからない
顔がすでにないようにも見える



とおくに滝があるが音はきこえない 
熱気のようなものが渦巻いている
暗緑色のむらがる蔦を
滝と見まちがえたのかも知れない



たべられて肋骨がむきだしになる
鍛えられた大腰筋 そして
脾臓、胃、横行結腸とはがされ
下肢がぴんと撥ねあがる



そのとき
わたしは熱い棺のなかに横たわっていて
ようやく滝は燃え盛る炎の音
そう気づきはじめた もう熱さは感じない



(註)ギュスターブ・ドレの版画から発想を得ました


戻る   Point(3)