薔薇の痛み/白島真
 

沈黙して眠るほかない
鬱積を投げ合う蒼い人語の地穴で
帆軸を極北に向けたまま
難破船のようにふかく朽ちていく


沈黙して眠るほかない
世界の清しい涯てをむなしくも夢みて
未だ塔のように屹立する痛み
薔薇の棘ばかりが名をもつ


ひそかに おごそかに
薔薇の根を抉る内部の声をきく
極北の郷土より土をあつめ
根のようにわたしを移植する
しずかに発芽した赤い蕾をそっと閉じ
瞼を重くするのは
心音はるかとおくに聞く古(いにしえ)の神話の子守歌


    
    わたしは もう 自分に水やりをしない
 
    わたしは もう 二度と

               生まれてこない



ひらひらと虚空を彷徨う偽りの朝
黄泉の国から無口な薔薇の使者が
永遠の仮面をつけてやって来る




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