いっちゃん・悦ちゃん/MOJO
 
いたくなかったの」 
 僕は、ビニール袋に、拾ったクワガタやカブトムシを入れる。そして、ますます機嫌が悪くなる。
「悦ちゃんのことなんだけど……」
「え? 悦ちゃんがどうかしたの?」
「先週の日曜日に、区営プールの近くで、いっちゃんの自転車の後ろに悦ちゃんが乗っているところを見たの」
「へー、そうなんだ」
 平静を装って、僕は言う。
「言いたいことは、それだけ。じゃ、あたし、帰るね」
 和子ちゃんは、そう言って、森の入り口に向かって、すたすたと歩いて行ってしまった。
 和子ちゃんが、森から出るのを確認すると、ぼくは、もう一度、助走をつけて、クヌギの太い幹を、思いっきり蹴った。

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