◎深海からの伝言/由木名緒美
 
耳を近づけて寄り添おうとするあなたの
頬に触れることは赦されない
私の醜さは
あなたの前では祝福となる
強風の吹きすさぶ耳の中では
秘匿こそが美徳である筈なのに
あなたは一枚一枚
そっと衣を脱がせていく

賭けた代償はこの際どうでもよくて
そのチップにどれだけの価値があるか
あなたは始めから負けようとするように
リスクを差し出す
詐欺師のように慎重で
聖者のように隙がない

視界 足取り 鳴りやまない動悸
それらすべてが あなたの愛するものならば
奈落とはそれを覗く異端者の
逆光の眼差しを浴びるためにあるのかもしれない

世界は今 深海のように

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