夏の断章/藤原絵理子
街はガラスに囲まれている
反射する さまざまな夢は
灰色に熱くなったアスファルトに
焦がされて 揮発する
空調の快適な 何もない部屋で
ただ死ぬのを待っている 暇つぶし
ガラスの表面を擦る指から
指紋は消えて 乾いた
レンズは光を集める
虚像は 大きく見せる
実像は 倒立している
熱に浮かされた眼で
かげろうの向こうに揺らめく
夏の日のレールは歪んで
腹を震わせて鳴いていた蝉は
熱い風に吹かれて転がる 乾いて
重みがなくなっていく
持っている林檎は 腐りかけている
わかっているのに 捨てることができない
店先で見たときの笑顔を引きずっている
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