桃獲り/葉leaf
 
何かは樹木から離れてもいまだ樹木であり、風景からもぎ取られてもいまだ風景なのである。何かはとんでもない広がりをもって世界中のものたちと連続していて、その連続性を断ち切ることができない。「桃」と名指すこと、「桃」の文脈を付与することは何かを巨大な連続体から切り出す作業だが、この何かに限ってそれは不可能なのだ。コンテナに行儀よく並んだ何かを眺めながら、私はこの何かを名づけることも意味づけることも拒否されたまま、何かがコンテナとも下の地面ともどんどん連続していくのを傍観することしかできない。ふと来客が来る。何かを求めに来た来客だ。「おいしそうな桃だね。一箱くれない?」私は答える。「桃ですか?この果実は桃ではありません。」「え?桃でしょ?」「名前がないのです。」「いいよ、とりあえず一箱くれよ。」私は何かを荷作ると客に売った。私が売ったのは何かではない。それはれっきとした「桃」だった。しかし売買が済むと、すべての何かたちは一斉に桃であることをやめて、互いの間の連続性を保持し合った。私は再び何かの収穫を続ける。

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