カルチェ・ラタン/藤原絵理子
夜のメトロ 向かい側のホームで
小さく手を振った 優しい仕草が傷つける
知らないふりで 次の列車の表示を見上げる
ポケットの中に その手のぬくもり
サン・ミシェルの酒場で アルジェリアを空想する
肌を刺す陽射しと 青く乾いた海
長い間ぶら下がったままの ペンキが剥げた看板
それはいつも必ず 映画館の看板
あの頃話していたことを 思い出せなくなった
部屋の隅 ベッドの下にでも 忘れられているのだろう
シンデレラ城のジグソーパズルの ピースがひとつ
そぼ降る雨の街角に 前脚をテーピングした猫
瞳を大きく広げて 見ているのは
濡れた石畳にひれふする 物乞いの手
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