嗜好は変化しない/ホロウ・シカエルボク
 
少なくともそいつにとってはそれなりの要件だったはずだ)、まるでそれについては思い出せない、きっと、徹底的な死について考え過ぎたせいだ、徹底的に死んだ魂は、肉体を離れたあとどんなことを考えるのだろう?(ああ、これは無理だ、もう絶対に生き返れないのだ)と納得しそうな気がする、それは幸せなことなのかもしれない、なまじ穏やかな顔で逝ってしまうよりはずっといいのかもしれない、だけどそんなものは自分で選択したり出来るものじゃない、死ぬほどの怪我をしても生き返って来るヤツも居る、かすり傷も残らないような暢気なことで、あっけなく死んでしまうヤツも居る、「人間は頑丈なのか脆いのか判らなくなりました」世界一間抜けな詩人の言葉だ、あいつが本当に言葉を発した時俺は笑っちまった、それで電話の要件は何だった?そのことはやっぱり思い出せない、結局俺にとってそれは必要なものではなかったのだろう、正直ヤツの声さえいまでは曖昧なものだ、雨の音はいつの間にか聞こえなくなっていた、肉体の中で吠えていたなにかも声を潜めた、インストルメンタルの時間はおしまいだ、俺が求めていることのほとんどはビートなのだ。

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