おむすび/もっぷ
 


と、しても

できた話も時には生きるに必要で
やっと「私」を捨てきってそののち
もしや視るべき真実としてただそっと
ひと時は眠らせておくことが
空気のように大切なのだと
訪ねながら云い聞かせて

 * * *

降りはじめた雪は四季を逆に廻り
いつの間にか梅雨となっても
窓の外 ついにやまない
風が薫る暦を越えて
そろそろすでに
花期を迎えたアネモネがみえてくる日に
その汽車の、隣に腰かけていた婦人が
懐かしい、味噌で握った俵むすびを勧めてくれた
もう一度だけでもと願っていた味だとわかっていた
戴いた、思いっきり/泣く


戻る   Point(7)