過去を捨てた男/葉leaf
 
し、社会に対して被害を訴えることもできた。だが、男はすべてを包括した森のようにただ茂っていればよかった。過去は森の奥処にばらまかれもはや原形をとどめない地衣類の類、赦すのでも諦めるのでもない、ただ捨てるのだった。

過去を捨てた男は津波被災地で復旧のための工事をしている。空間放射線量の高い地域にも何度も赴いた。作業着には未来の汚れがすでに描かれている。重機は自らの理性に反射するように俊敏に動いた。厳しい肉体労働は日々を刻み夜々を貫く真っ赤な剣のようなものだった。男はよく海を眺めた。海の核心のようなものを手に握っては取りこぼしていった。仲間には津波で家族を失った者や避難経験者が何人もいる。男は自
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