渇き/乱太郎
 


喉を失くした
もう言葉で潤えない
どんな綺麗で優しい言葉でも
空腹を満たすことは出来なくなった

おいでよ
もう誰も信じなくていい
どこからともなく聴こえてくる
もうひとりのわたし

指の先から溶けていくような
いまのわたしを
輪郭のない言葉が舐めまわす

窓をすり抜け矢継ぎ早に襲ってくる突風が
朝の声と夜の寝言の垣根を破壊し
わたしの中で渦を巻く
謂われない汚い言葉でさえ怯えはじめる

どうしたらいい
食道までさえ辿り着けない言葉
皮膚で覆われて
確かな身体を持っていたはずのわたし

誰にも聞いてもらえない

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