条痕/ハァモニィベル
 
 「条痕」


ぼくは、〈沈黙〉のまわりで遊んでいたことがある。
なんの裏付けも無いことばよりもそれが信じられたのだ。

大人たちの居間で飛び交う〈ことば〉の
ひどく空ろな虚構より

太陽がぼくの影を見つけた日は特に、
子供部屋に置かれた巨きな鏡の中で
響いていく〈沈黙〉が確かだった。

定冠詞の付いた〈沈黙〉
いつもその沈黙の螺子(ねじ)を巻きながら
逃げ遅れた小道で
何億もの黎(くろ)い手に首や足を掴まれた。
そんなとき,

必死で伸ばした
ぼくの手がつかむのは
いつだって
瞬間の白骨。













《2016.5.20 条痕 
@【沈黙する詩行】@蛾兆ボルカさんのプチ企画に参加したときの作品/》
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