風光る/マチネ
他人の日記を盗み見る生活に慣れて
部屋の桔梗を枯らしてしまった
あんなに美しく思っていたのに
いつの間にか時間が軽くなった
ことで時に重みがあることを知る
あのはつなつのグラウンドの
泥のにおい
たちこめていた湿気は時そのもののようだった
あの毎日
(あの日々は、本当に毎日と呼ぶに相応しかったね)
意味が充満した方舟型の学校で
恐ろしくて
学園祭の日
体育館で泣いていたのは僕です
軽音楽部の演奏は下手で音だけが大きくて
幕の裏に隠れた僕の耳をぐちゃぐちゃにしそうだった
あの日々は、本当に毎日と呼ぶに相応しかったね
もう求めていたように愛される見込みがないと分かって
風がきれいでした
風光る、は、春の季語、だよ
って誰に聞いたんだったか
きっと僕は嬉しかったと思う
風光る、は、春の季語
春の季語
は
軽く
やわらかい
意味を手放すように生きて
体育座りが得意だったあの頃から
遠く遠く離れて
春の季語
風光る、は、春、の、季語、です。
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