ナ・ツ・メ・ロ/ホロウ・シカエルボク
 



浅いところで手を浸して
つめたいと言って笑った
いまごろにしてはすこし寒い
土曜日の午後のことだった
アイスクリームなんか食べたい気分じゃなかったけれど
きみが頑として譲らなかったから
しかたなく甘い思いをした
水平線はぼんやりとして
ぼくの気分のようだった
海辺の歌をぼくが歌って
高いところできみが重ねた
造船所のクレーンが
指揮者のように少し揺れて
ぼくらは顔を見あわせて笑った

その夏のヒット・ソングは
去年の歌の真似ばかりで
新しいチャートが流れるたびにぼくらは顔をしかめていた
とつぜん空が曇りはじめて
潰れた海の家に急いだ
軒下に潜り込
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