骨の記憶/伊藤 大樹
 
かかえきれないほどの
言葉を(かかえて)
あまりの重さに
不意の重さに
落してしまった
嬰児の頭蓋骨が
ゴトッ と 鈍い音を立て
床に落下する

 「ちょっと待って
  いま言葉が落ちたから」

書けないペンを持ち歩いていた
なんて私は
愚か(さに忠実)なのだろう

巧妙に息を殺し
君の隣にもぐり込んだ夜を覚えている
そこで交わした言葉は忘れてしまったが

うつくしさでごまかさないで欲しい
私はもう目が見えない
痛みのような電車が通過した

たったひとりの人がいない
そのいないひとりを
<君>と呼ぶことに執着し

泣き叫ぶ嬰児を
どうすることもできなくて
拾わずに済んだのなら
うつくしさでごまかせばそれで足りた

言葉だけになってしまって
それでも君の骨はあの痛みを記憶しているだろうか

私はかろうじてまだ
うつくしい人間でいられた

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