ひとり 二層/木立 悟
 





ひとつの花びらが切る空を
どこまでも耳で追いかけて
胸の痛みに振りまわす腕
機械のように歩みゆく径


ひとさし指
夜を作る粒
夜を真似る窓
そこに無い窓


海から来たのか
海へゆくのかわからぬ影が
波打ち際にたたずんでいる
砂岩の音
そよぐ花の音


心を消す日々
呪いという名の祝いさえ無く
火の仮面の鳥の群れ
常に揺れる空の端


夢のなかに忘れた自転車
巨大な建物の裏側の海
日陰の径をぎごちなく歩く
波を指さす母子の列


夜と夜のはざまの中庭
花に埋もれたままの自転車
五千年ぶりに聴く波音に
樹々は少しだけざわめいている


午後を巡るひとりが
夜を追うひとりを見つめている
明るい風のなか
空は蕾に満ちてゆく





















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