もう怖くなくなった/
平井容子
夜、おしっこに起きたときの
ベランダの外に広がるたぷたぷと波打つ闇や
満員電車でとなりあう
湿った背広のすえた臭いなど
そういうものを
とん、とん、とん、と踏んで
住宅街を俯瞰し
気に入った家を引っこ抜いて花束にする
砂糖水に浸けて
これからもずっと生きていけるように
約束通りの時間にお決まりの角を曲がるころ
もう何も怖くなくなった
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