落花/藤原絵理子
風にはぐれた椿一輪 川の流れを漂う
冬の終わりに 寄る辺なく揺られて
春咲く花は霞を湧かせて 華やかに
あたしは きみの笑顔を思い出せなくなった
寒さに耐えて 守っていたものは
ぬるむ水の霞に 薄らいで消えた
張りつめていた不安は はぐらかされて
わかったような顔の 仮面の下に
心の底に 黒い炎を隠して
満開の花に微笑みかける
妬みと嫌悪を ひととき誤魔化して
季節はうつろいゆく
誰も皆 落ちた椿のことなど忘れ去る
気がつくと 自分より不幸な人ばかり探している
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