春へ/藤原絵理子
 

道標のない坂道は 霧の中に向かって
砕けた岩が転がっている道端に 
明るい顔で タンポポが咲いている
白い羽を残して 飛び去る


ゆがんだ古時計を壁にかけても
もう元に戻ることはない 何も取り戻せない
ほの暗い殻の中で 半透膜ごしに見る
外は平穏に 笑い声と泣き声で均衡を保っている


分かれ道で選ぶたびに 何か忘れ物をして
ゆっくりしたいのに 急いでいる
大急ぎで ゆっくりしている


どっちにしたって いずれ春が来て 
咲くことを約束されている 娘たちの
心の奥に燃え残る 熾火が消えるのを待って

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