キャッチボール/服部 剛
一日の仕事を終えて
帰った家のソファに、坐る。
ママは台所に立っている。
人より染色体の一本多い、周は
パパが足を広げた間に
ちっちゃい胡坐(あぐら)をかいて
「おかあさんといっしょ」の
ビデオを見ている。
パントマイムのお姉さんが
テレビの中から
目には見えないボールを、投げた。
ボールは、周を通り過ぎて
背後のパパが、受け取った。
今日一日、パパは
目には見えないボールを
ちゃんと投げれたろうか?
しっかり受け取れたろうか?
仲間と歩む、日々の職場で
ひとつ屋根の下の、この家で
ママがまな板を叩く音(ね)を聞きながら
幼い周の頭を撫でながら
――パパはひと時、考える。
この手にのせた、見えないボール。
テレビの中のお姉さんを真似て
明日こそ、誰かに投げてみよう。
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