17/あかり
ままあたしの横に座る
あたしは昨日の続き さ行から教えてあげる
さ・し・す・せ・そ
あたしはこんな場所でこんな時間に
昨日出会ったばかりの男に 日本語を教える
た・ち・つ・て・と
アイラインのペンシルで紙ナプキンに書く
発音するたびに 彼があたしの唇を凝視する
素敵だ、と思うことは一瞬で
退屈だ、と思うことは案外長続きするものなのだ
あたしは文字を書く手を止めた
ロブはペンシルを手にとった
「あいして」白い手のひらにそう書いた
「る」を教えてないから 書けなかったのか
それとも「愛してほしい」という意味だったのか
もしくはなんの意味も無く ただ覚えたての言葉を組み立てただけなのか
彼は二言くらい英語で何かを言った後 消えていった
ピンク色の世界の中に
ロブ、ごめんね あたしはもう来ないよ、多分
重いドアをあける 白々とあけそうな空
早く帰って お母さんに怒られよう
始発のバスはもうすぐ 退屈な一日を運んでくる
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