散乱/田代深子
液晶が 関東平野を東へ走る青年 を映す 速度にまつわる素朴な
感嘆は冷気にあてるとしぼむ はずだから「ああ」という呼気をふ
くらまさず口のなか でビールと混ぜてのんでいる 速度よりも
距離を驚いているのだとわかるのはその後で 距離をものする慨嘆
も酸素にあたり黒くしおれてしまわぬよう軽く 抑え て正月の朝
陽射す炬燵のうえ やけにすがしい切り子のグラスをならべ つ
ぎわける 泡ふくら む 黄金いろ窓ごし光が散らばっている冷え
た缶を わたしたちはあけなめらかに 膨潤する
水ふくむ身体は 走り過ぎてきたカーブの向こう側でリレーされ
中途半端 な表情のまま五千頁
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