春が立ちあがる音(ゴル投稿長考版)/高橋良幸
手を貸そうか、なんて
わたしが必要としていないのを知っていて言うんだ
1530円をレジで払おうとして
財布にない10円玉を探すふりをして
冷凍庫で乾いてしまったような伝言を
今更思い出した風に
それがあなたのセリフなのだから
仕様がないとでも言いたげに
途中まで行こうか、なんて
期待しているよりも早く帰ってしまうのに言うんだ
すれ違いと行き違いのちがいなんてどうでもいいのに
そんなことだけで会話したつもりで
だいたいわかってしまったことを
もう一度問いなおしたりして
聞き返した言葉を
あなたはウグイス嬢のようにうたう
そうなのだ
やっぱりそうなんだ
凍っているかもしれない道で
いつの間にかあなたは居なくなっていて
そうだと知っていたことに
だんだんイライラしてくる
まな板の上の成し遂げられなかったものたち
その代わりに何かをしなきゃ
わたしは悔しくて
自転車のまま
この坂道をのぼり切ってやる
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