白菊の露/一筆
 
夜半の月は無情に蒼く
帰ると誓った影はない
白菊の花は夜露に濡れ
冷えた袖はしっとりと重い
長い旅だとあなたは言った
待てぬと叫ぶこの手には
あなたが残した一輪の菊
時は重陽、誓いの盃
あなたは静かに微笑んで
今月今夜のこの月に
かけて必ず帰ると言った
足音のない窓の外に
ふと懐かしきその顔を見る
月は雲に姿を奪われ
あなたの姿は闇に溶け
声だけがただ我を呼ぶ
帰ってきたよ
約束どおりに
もどかしく駆け寄れば
吹き払われた一陣の風
月光がすべてをさらけ出す
人の身を捨てたあなたは
銀の鱗を散らして天に帰る

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