硝子のコップ/寒雪
夜中何度も目が覚めて
なんだかすっきりしないまま
布団から起き出して
水道の蛇口をひねり
乾いた体にひとときの喜びを
元あった場所に戻そうとして
手をすべらせた
哀れコップはしたたかに
床とキスをして
そのまま四方八方に
痛みに耐えかねて
あげた甲高い悲鳴が
うざい程耳の奥にへばりついて
やっちまったな
屈んで破片を無造作に
拾い上げると
当たり前のように
鋭い刃に指を絡めとられて
指先からは
病気のせいか少し
健康な人間より黒ずんだ血が
緩やかに指を滑り落ちていく
片付けるのに
ちょいと不便だが
黙々と破片をビニール袋に
しかし痛い
コップは割れる瞬間
今のおれと同じように
痛みを感じてるのか
くだらない気持ちが
胸の奥に現れて
なんだか消えてくれなかった
同じコップって
たぶんもう買えないだろうな
そう思うとなんだかすごく
惜しいことをしたなと思って
思わず
短い付き合いのコップに
深々と一礼する自分が
なんだかおかしくて
気が付いたら
泣いてた
戻る 編 削 Point(1)