時雨に/藤原絵理子
 

夢中になった歌集は 本棚で埃をかぶっている
覚えている言葉は もう何も動かさない
好きだった花が 色褪せて見える
もともと 好きでもなかったのかもしれない


紅をさす 鏡の中にいるのは
茫洋と遠いところを眺める 見知らぬ女
せめて翳った陽射しが集まるよう
去った人を想う けなげな自己憐憫


冬枯れた庭の戸を閉ざして
積もった枯れ葉に落ちる 時雨の音を聞いていた
誰も待ってくれてはいない 誰をも待ってはいない


雨上がり 午後の陽を浴びて 諦めは坂を下っていく
これでいいと呟いて 自分を偽りながら
不安は 野辺の名もない花と光の香にかき消される

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