一瞬の影として/いねむり猫
 
波立つ湖面は
薄い雲が駆ける空と
雪原が反射する
午後の日差しで
濁った銀色に 染められている

切り立つ山肌は
根雪まで吹き払われ
黒々とした 風の道を見せる

はるか上空 
この山脈全体を押し包む 激しい寒気が
山頂から湖面へ なだれ落ちてくる

この土地と気候の 何万年も繰り返されてきた
駆け引きの前で
私の体は 
どこへ つかまることもなく
根付くこともなく
ほんの瞬間 雪原に影を落としているだけだ


痛めつけられた ハイマツの
ねじくれた枝ほどの 存在の道理もなく


それでも 私が 私であるための
小さな戦いを 続けるしかない


旅は 私を 正しく見せる

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