梢が春となる頃に/もっぷ
 
私は一篇の詩になりたい
それはたとえば路傍の風景

私は何も語りたくない
私としてのさびしさなど

私は私でありたくない
私にとって 私でありたい

私にどうして彼(か)の父母があるか
多分に偶然でしかない

ひとであるより石ころや
あるいは風を頼りとする花

水平線を越えゆくはずが
負傷し砂にいだかれる渡り

すでに郷から捨てられていて
四季にみかける鴎のような

いまよりはるかに身の上に近く
いまよりはるかに靴から遠く

雪の降らない南の海で
雪に焦がれる人魚のように

少女の鞄の手帖のなかの
そっと消えたい或る日のように

遡上のあとにも命ありたい
鮎の懸命な祈りのように

橋の下に居る自分は何故と
雀に問いたいみどりごのように

名乗らぬ町のさやかな庭で
梢が春となる頃に

私は言葉を喪って 一篇の詩になりたい



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