混沌のクマ/オダカズヒコ
 



この4月にぼくは都会のアパートに引っ越してきた
窓を開ければ早稲田通りが見えた
車よりも多い人の列
駅へと向かう学生と通勤者
その眺めに
ぼくらはいくらか満足していた
奨学金を得て
親から独立した勇気と
この街にあると信じた未来に
ただそれは生き甲斐ではなく
たたき割られた
偶像に過ぎないことを知るまでは

世界の秘密は合図もなくひっぺがされ
生活に押し寄せる貧困が
ぼくの肉を削ぎ始める
19歳のぼくの眼には
空虚感からはい出した矜持と
世界に対する憤怒と孤独があり
やがてそれは
ぼくを混沌のクマにした
クマになった午後
ぼくは街を徘徊し始め
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