冬の香/藤原絵理子
まだ蕾とも見えない 小さな突起の
春を待っていた梅の枝は 雪の重みに折れる
うららかな鳥の声を聞くこともなく
清冽な香を漂わせることもなく
淀みに映った空は 日に日に冷たく
緩やかに流れる水は 風景から色を奪う
川原に流れ着いた 赤いゴムまりは
少女が大人になった時 捨てられた ひしゃげて
失くして初めて知る
あたりまえに持っていたもの
様々ながらくたや とりとめない夢 手の中に
灰色のモノトーンに際立つ 赤を置き去りにして
川も風も流れ去っていく 未来に向かって
こころは膨らむこともなく その赤に寄り添って震える
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