朝の忘れ物/いねむり猫
 

いくつにも分かれた小さな窓から 朝の光が迷い込み 
吹き抜けの天井に
響き合う

力の入らない魂が 誘いだされては
光の霧の中を 浮遊している

BGMのピアノの音が 
まだ一つにはまとまっていない 私のかけらたちを
時折 探り当てては 拡散していく

コーヒーの香りは 白い器の周囲に たなびき 
それでいて 遠くには 離れようとしない

忘れ物の 手袋のような 
かすかなぬくもりの記憶 


カウンターの中で 次の客のコーヒーを用意する
器のかすかにふれあう音 砂浜の貝殻のように 
一日の始まりを ささやいている


満ち潮に取り残された 小島のように
朝の時が どこにもつながらない孤独を 楽しんでいる

それでも とどめられない 時の砂 
傍らを通りすぎながら 
豊かな香りを 少しづつ奪っていく


それでも 私のかけらたちは まだ  
ぼんやりと光る 魂の余白の中を 漂っている


潮騒のような 日常の気配が
足首に 満ちてくるまで

私は まだ 
朝の 忘れ物でいたい


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